【みんなみの里】土蔵の“糀室(こうじむろ)”で昔ながらの糀づくりを手がける『島田糀店』

 今日は、みんなみの里の直販所で扱う、昔ながらの糀室(こうじむろ)で育てた糀と、それを用いた味噌、甘酒をつくっている『島田糀店』の島田浩史さんに、お話を伺いました。
 土壁に漆喰を塗ったという、代々引き継がれてきた“宝物”の糀室で、鴨川の自然が織りなす気候の中、自らの肌感覚や経験値を頼りに糀づくりと向き合ってきた、島田さん。
 ちなみに島田さんのお名前『浩史』は、コウジではなく、ヒロシとお読みするそうです。


――鴨川の南小町にある島田糀店は、なんといっても年季の入った母屋に目が引かれますが、創業からどれぐらい経っているのですか。

「僕は四代目で、初代は孝次郎(こうじろう)といったそうです。母親に『うちはいったい何年経っているんだ』と聞いたら、『わからないけれど、四代続いているから、だいたい100年くらいかねえ』と。明治から糀づくりをしていたことは、間違いないですね。以前は南小町の“奥”と呼ばれるあたりにいて、糀だけをつくっていたと聞きました。味噌づくりをはじめたのは戦後からです。
 ここの母屋自体は、昭和12年に建ったと聞いています。ですが、じつはここで一番歴史のある建物はこの、糀をつくる糀室(こうじむろ)。土でできた昔ながらの蔵で、その上に白い漆喰を塗っています」

――たしかに年季を重ねた糀室ですね。中に入ると、空気の湿り気やぬくもりを感じます。実際に今朝まで、ここへ糀を寝かせて菌を育てていたのだとか。

「はい。ここは保温を行う場所で、蒸した米を引き込んで、ここで二泊三日させると糀ができあがります。ちなみに、糀室の中の天井や壁が黒くなっているでしょう? これは、糀の黴なんですよ。
 いま(取材時)は水曜の午後ですが、週の流れでお話しすると、月曜の朝に蒸しはじめたお米から、水曜の朝に糀ができあがります。
 月曜に米を蒸し、蓆(むしろ)を敷いた上に広げて冷まし、種糀(たねこうじ)という糀の菌をまんべんなく振って、それを糀室の中に入れる。そこまでが午前中の仕事です。
 それが火曜になると、菌のはたらきで、蒸して種を付けた米に熱が出てきます。それが『これぐらいでいいのかな』という温度になったら、山の状態でまとめてあった米を細かくほぐして、一升ずつ糀板(こうじいた)に入れていく。これを火曜の午前に行いますね」

――いまは糀室の外に積んである、糀が入ったトレイのようなものが糀板でしょうか。

「はい。その糀板を室の中で積んでおくと、今度は糀が板の上で、伸ばしたかたちに固まります。それを一回、“手入れ”というんですが、ほぐして板全体に広げ、空気を全体に当てることで、発酵が均一に進むんです。
 そうして手入れをした糀板を室の棚上にあげたあと、火曜から水曜にかけては、いよいよ室の中の温度と湿度の管理ですね。水曜の朝、良い糀ができあがるための室温目標は30度。だから、朝がちょうど30度くらいになるよう、ストーブをふたつ持ってきて置いたりだとか……」

――5月にストーブ! あらためて、自動の温度調整機能などはない、そのままの“土の蔵”なんですね。

「はい。湿度や温度の管理も、数値を記録するようなことはしていなくて、経験値や肌の感覚で調整を考えて……その日によって、やることが違いますから。
 昨日も寒かったので、今まではストーブひとつで弱火が正しかったけれど、昨日はこれじゃあ温度が出ないと思い、ストーブをもうひとつ持ってきました。おかげで今朝はしっかり30度になっていたので、よかったです。
 糀というのは黴ですから、温度と湿度と栄養、この三つが揃うことで発生します。ここで栄養にあたるのが、お米のでんぷん。そして湿度は、ストーブの上に湯を沸かす鍋を置いて、あげていきます。
 糀の黴もあまりに出てしまうと、ぼやぼやになりすぎて、つまり米の栄養をとりすぎてしまうんです。だから、米にもある程度力を残した状態で、糀菌を米のまわりにつけたい。その湿度の加減というのも……数字では分からないんですが(笑)、感覚で、鍋をふたつ置いてみたりだとかね」

――まさに経験の世界。日々変わる鴨川の気候を、そのまま相手にしているんですね。

「ええ。糀づくりで一番苦労しているところも、この温度と湿度なんです。温度の調整自体は、米を糀室に入れる月曜から行いますが、重要なのは糀板に米を入れて広げてからの、最後の仕上げの温度になります。
 長年の感覚なのですが、もし温度が高い日だとしても、その日がカラっとした湿度の低い気候だったら、もうちょっと温度をあげてもいいかなとか、逆に湿気が高めだと菌が働きやすいから、このままで温度をあげなくてもいいかなとか……。温度と湿気の具合、といっても頼るのは肌感覚と、あとはニュースを見て確認をして(笑)。
 温度がちゃんと朝を迎えられそうだ、これなら大丈夫だっていうところまでは寝ないで、時には深夜まで、何度も糀室まで見にきます」

――なるほど。土の蔵で糀を醸していること自体が、いまでは珍しく、手もかかるように感じました。管理は、やはり難しいんですか。

「他の味噌屋さんでは、レンガや発泡スチロールを使って糀の保温を行うようですが、土の蔵で発酵させているところは、たしかになかなかないようです。
 良し悪しはそれぞれあるんでしょうけれどね。たとえば発泡スチロールだと、温度は保てるけど湿度の呼吸がないので、表面に水滴がべたっとついて終わりだと思うんです。でも、土の壁だと多少湿度の調節もしてくれますし、うちの糀室の中についている糀菌もふわふわしていて、湿度を吸ったり吐いたりしてくれるんですよ」

――先ほど話してくださった、糀室の壁や天井についているという糀の菌ですね。もう、ずいぶん長く、ここに住み着いているんでしょうか。

「ええ。四代継がれた、うち独特の糀菌なのでしょうね。本当に、この糀室は宝物です。
 なかなか難しいんですよ。糀菌があんまり壁や天井につきすぎてしまうと、それが落ちてきて、寝かせている糀に入って黒くなってしまいます。かといって、あんまりきれいに拭いてしまうと菌がなくなってしまうから、加減を見ながらね」

――島田糀店の味をつくる、大切な室の糀菌ですね。あらためて、今朝取り出したという糀板を見てみると、本当にきれいに、糀がお米の表面についています。

「光にあてて斜めに見ると、ベルベットのように細かくてきれいで……全体にちゃんと菌が行き渡って、うまくできたなあと。まさに、糀という字に入っている“花”ですね。
 真夜中に糀室へひとりで来て、ベルベットみたいにきれいな糀ができたときには、幸せを感じます。味噌だったら、蓋を開けてふわっといい匂いがすると、おいしく仕上がっている。そんなときは幸せですね。よくできたなあって」

――この糀で甘酒や味噌も手掛けていますが、味噌づくりなども、やはり気候に左右されるものなのですか。

「はい。というのも、味噌を熟成させるための温度管理の設備が、うちにはないんです。ふつうの建物に置いて熟成させているので、暑ければ、窓をあけて風を通す、ということしかできなくて。
 ですので、味噌の色の出かたが、その時々で違うんですね。お客さまも『この前の味噌と色が違う』と。でも、色だけでは、以前と同じ味噌なのか違う味噌なのか、どの味噌を買っていただいたのかがわからなくて(笑)」

――本当の意味で、“鴨川の自然の元でつくった自家製”なんですね。その年、その時の気候だからできあがった、今ならではの色。ワインにも似た世界のように感じます。

「ええ。ここ3、4年は夏が猛暑ですから、色が濃くつきやすくなっています。ただ、そういうときにうちができるのは、なるべく一生懸命、窓をあけて風を通して、ということなんです。
 本当は、味噌の色などもいつでも同じように、均一に出さなければいけないんでしょうけれど、それを『買うたびに楽しみがあっていいよ』と、その年の個性を楽しんでくださるような方が、うちのお客さまなんでしょうね。
 そういえば先日、私はいま56歳ですが、僕と同じくらいの年代の、ちょっと強面の男性のお客さまが『味噌って、こんなにおいしいんですね』と言ってくださって……この方がこれまで生きてきたなかで、いちばん旨い味噌を食べてもらえたのかなって。そのときには、幸せを感じましたね」

 

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